本日のテーマ
テレビや新聞、ネットニュースや冊子など、あらゆる媒体でふとみかける「障害者」という表記について改めて考えてみました。
本記事は「障害者」という言葉の背景から、私の頭に浮かんださまざまな疑問を解消しつつ、私なりの着地点までを記載しています。
文字を扱うデザイナーとして、当たり前のように使っていた言葉について学び直すことで、目的や時代に適切な表現できるようにと思い執筆しました。
「障害者」という表記について考えることになったきっかけ
以前、次のような記事を書いたことがきっかけになります。
上記の記事は、「目が見えない」母の友人のために書いたものです。
記事がきちんと困っている方に届くよう、どのようなキーワードで検索されるか調査しています。
「目が見えない」というキーワードでどんな記事が最初に表示されるのか調べたところ、主に病院関係の記事が並んでいました。
以下、4月3日時点のスクリーンショットです。
「目が見えない」で調べる人はどんな人か?
病院がほとんどということは、「目が見えない」というキーワードで検索する人の背景と目的は次のように仮定できます。
背景:これまで問題なく目が見えていたのに、急に見えなくなった
目的:病院を探している=治療を求めている
「目が見えない」では想定したターゲットに届かない
「目が見えない」というキーワードでは、「目が見えないこと自体を改善したい」という人が使う傾向がありそうです。
ただ、母の友人は「急に目が見えなくなった」わけではありません。「目が見えない」という状況は今後も変わりません。そのうえで、出来ることを増やしていきたいという目的があります。
では、どういうキーワードなら母の友人に届くのでしょう。。
ふと目に入った「障害」というキーワード
Googleで検索すると「他のキーワード」という欄があります。
そこで「目が見えない 障害」という言葉をふと目にしました。
「障害」の「害」という漢字を見た時に、そういえば「がい」とひらがな表記している文書やチラシもあるな…と思い出しました。なぜ、わざわざひらがな表記にしているんでしょうか。
調べてみました。
障害、障がい、障碍という表記
「障害」の表記に関する国語分科会の考え方(令和3年3月12日文化審議会国語分科会) の資料のうち[資料2]を参照しました。
そこには、「障害」の表記に関する検討結果が書かれおり、次の3つの表記がありました。
- 障害
- 障碍 ※しょうがいと入力すると変換で出てきます
- 障がい
それぞれの表記を見ていきましょう。
そもそも「害」の意味は?
大辞林によると「害」という漢字には次のように記載されています。
これらを踏まえて、それぞれの表記に対する意見はどうなのでしょうか。
「障害」表記への意見
資料からそのまま引用します。
〈肯定的意見〉
「障害」の表記に関する国語分科会の考え方(令和3年3月12日文化審議会国語分科会)
・ 「障害者自身は「差し障り」や「害悪」をもたらす存在ではなく,社会にある多くの障害物や障壁こそが「障害者」をつくりだしてきた。このように社会に存在する障害物や障壁を解消することが必要である。このような社会モデルの考え方と条文では,「Persons with Disabilities」と表記していることから,現段階では「障害」の表記を採用することが適当である」
・ 「社会モデルの観点からは,「障害」がふさわしい」
〈否定的意見〉
「障害」の表記に関する国語分科会の考え方(令和3年3月12日文化審議会国語分科会)
・ 「「害」は「公害」「害悪」「害虫」の「害」であり,当事者の存在を害であるとする社会の価値観を助長してきた」
・ 「語源的にも人を殺あやめるという意味があり不適切」
※ここでは当事者及び一般からの主な意見とあるため、どれが当事者でそうでないのかまでは分かりません。
「障がい」表記への意見
資料からそのまま引用します。
〈肯定的意見〉
「障害」の表記に関する国語分科会の考え方(令和3年3月12日文化審議会国語分科会)
・ 「柔らかい印象があり,点字を利用している人でも書くことができる」
・ 「移行期間という認識の下で,ひらがな表記が望ましい」
〈否定的意見〉
「障害」の表記に関する国語分科会の考え方(令和3年3月12日文化審議会国語分科会)
・「表意文字である漢字を,ひらがなに置き換えてしまうと,「社会がカベを作っている」「カベに立ち向かう」という意味合いが出ない」
・「「障害」の表記を「障がい」に変更する考え方は,障害者の社会参加の制限や制約の原因が,個人の属性としての機能障害にあるとする個人モデル(医学モデル)に基づくものであり,医学モデルから障害を個人の外部に存在する種々の社会的障壁によって構築されたものとしてとらえる社会モデルへの転換を第一次意見において示した推進会議としては採用すべきではないのではないか」
「障碍」表記への意見
資料からそのまま引用します。
〈肯定的意見〉
「障害」の表記に関する国語分科会の考え方(令和3年3月12日文化審議会国語分科会)
・ 「「碍」は電流を遮断する「碍子」などで用いられているように,「カベ」を意味する言葉である。社会が「カベ」を形成していること,当事者自らの中にも「カベ」に立ち向かうべき意識改革の課題があるとの観点を踏まえ,「碍」の字を使うよう提唱」
・ 「社会モデルの観点からは,「障碍」がふさわしい」
・ 「「碍」の字は価値中立的である」
〈否定的意見〉
「障害」の表記に関する国語分科会の考え方(令和3年3月12日文化審議会国語分科会)
・ 「「障碍」の表記を採用する場合,仏教語に由来する「障碍(しょうげ)」の語源に関する問題もあるため,「害」の字を使う場合と同様又はそれ以上の問題の指摘を受ける可能性が否定できない」
・ 「表記を変更したところで,「障」=「さわり」,「碍」=「さまたげ」であって,漢字の持つ負のイメージに変わりはない」
「障がい」の表記を選択した県
内閣府の資料も読みましたが、「障がい」の表記を選択した理由について大分県のポータルサイトが分かりやすかったのでリンクを貼らせていただきます。
「害」という言葉の「負」のイメージを変えたいという流れが一部あるようです。イメージを少しでも和らげるために「害」をひらがなで表記する動きが始まったんですね。
以下、内閣府の記事より各都道府県の「障害」に関わる「がい」の字の取り扱いがまとめられていました。地域によって表記をどうするかの選択が違うんですね。
まとめ
表記の選択は立場や状況により選択する
障害、障がい、障碍という表記も賛否両論でした。どの表現を使うかは各々に任されており、令和3年の今でもこうして表現について議論されているんですね。当事者の方々の気持ちに応える動きがあるのはいいなと思いました。
どの表現を使うと良いんだろう・・・かなり悩みました。そもそも「害」という表現自体を変えないとこの議論はまだ数年続くような気がします。
とても悩みましたが、次の結論に至りました。
- 個人としてはどの表現を使うかは今のところ自由
- デザイナーとしては、状況に合わせて使い分けるのが良い
各都道府県や団体によって方針が違うため、表現することが仕事のデザイナーとしては個人的な主張より状況に合わせて選択したいです。
前回の記事では紹介するアプリを作ったMicrosoftが使っていた「障碍」という言葉をそのまま使用しました。
プロに相談したい方におすすめ:ONLINE上司
どうしたら良いのか分からない…誰かに気軽に相談したいという方は、ONLINE上司というコミュニティに参加をおすすめします。詳しくは運営者ニシグチさんの note を参照ください。
私も2021年8月から参加しており、困ったことや分からないことを気軽に相談させてもらっています。
記事としては見つけてもらいやすいキーワードを選択する
「目が見えない」というキーワードでは検索ボリュームが少なく、せっかく記事を書いても見つけてもらえない可能性がありました。
関連ワードを探し「目の不自由な」という言葉を見つけ、検索ボリュームもそこそこあったのでこれをタイトルに加えました。
おわりに
ものすごく長くなるのでここではカットしたんですが、「障害」という言葉を調べるのに「害」という漢字についてだけでなく「熟語の構成」についても調べたんです。。熟語って5つの構成があるんですよね、小学生の頃習ったような気がしてきました。
前に引用符について調べたときも、どんどん話が広がってまとめるのに苦労しました。
頑張ってまとめたかいあってか、未だによくアクセスされている記事です。
なぜだろう・・って思ったことについて思うままに深堀りしていくの好きです。
今回の記事もお役に立てたら嬉しいです。